■実行委員選挙
日米学生会議では毎年、参加者による直接投票で次の世代の実行委員を選出します。立候補者は、日米学生会議に対する情熱やヴィジョン、実行委員としての適性を演説し、それを聴いた参加者は「この人にならJASCの未来を託せる」と思える人に一票を投ずる。70余年の歴史を誇る会議を通じて育まれたプロセスであり、会議を締めくくる一大イベントです。今夏行われた第58回会議も例外ではなく、最終サイト(訪問都市)となったサンフランシスコで第59回実行委員を選ぶ選挙が行われました。
■立候補
問題はなぜ僕が―専門はフランス文学で、アメリカと直接関係があるわけでもないこの僕が―実行委員に立候補したかということでしょう。春からは四年生になり、卒業論文を執筆せねばならない。九月に院試も控えているし、公務員試験を見据えた法律の勉強も始める必要がある。教習所通いだって終わっていないし、趣味のサックスと手品、読書の時間だって減らしたくない・・・冷静に考えればこれらの予定と実行委員活動を両立することは、すでに二重三重になっている草鞋の上からさらにランニングシューズを履くようなものです。走ることはおろか歩くことすらままならない。予定のマネージメントに失敗すれば自分の進路に影響が出る。留年も覚悟しなければならないかもしれない。翻ってそもそも自分には、伝統ある日米学生会議の実行委員を勤められるだけの能力があるのだろうか?
■背中を押したもの
悩みは限りなく、不安は尽きない。それでも、僕は実行委員に立候補しました。いや、正確に言うならば立候補者に許される3分間の演説時間を使って、皆にある想いを伝えたかった。それは他でもない「感謝」の気持ちでした。思えば僕は本当に多くのものを日米学生会議から与えられました。それはコーネルでの日米焼き鳥大会であったり、オクラホマで英語漫才をしたことであったり分科会討論の中でアメリカ側参加者の鋭い知見に感銘を受けたことであったりと数え切れないのですが、この一ヶ月間の思い出と経験は―ちょうど小説家が書きかけの一行を消して新しい言葉に書き換えるように―僕という人間の内的組成をこれ以上ないほどラジカルに変えました。「自分という人間を見つめなおし、将来に対する目を開かせ、人生の目標を見失っていた自分を蘇らせてくれた日米学生会議に対する恩返しがしたい。そして願わくは日米学生会議というlife-changing experienceを次代に伝えていきたい。それが僕の偽りない気持ちです」直前まで推敲を重ねたスピーチを読み上げ、幸運にも僕は実行委員になることができました。
■実行委員として
実行言委員になってからは、日々新たな仕事と壁にぶつかり、後悔と失敗の連続です。理不尽な程の仕事量に途方にくれ、全てを投げ打って出家してしまいたいと思うこともしばしばですが、そんな時頭を掠めるのはあのサンフランシスコの選挙の後で実行委員になった僕に声をかけてくれた皆の存在です。「私の分も頑張ってね、途中で挫けたりしたら許さないんだから」と言って頬を赤らめたRisa、「お前ならできると思っていたよ。16票全部お前に入れたんだ」と言ってくれたPhilipe Vu、「一緒に最高の分科会を作ろう」変わらぬ友情と来年の成功を誓い合ったCasey・・・。彼らの顔と言葉を思い出すたびに僕は初心にかえり、日米の実行委員を続けていく決意を新たにするのです。
日米学生会議とは?
日米学生会議は、日米両国の学生が様々なトピックを巡って議論する日本初の国際学生交流プログラムですが、それだけではありません。両国の学生が一ヶ月間寝食を共にすることで生まれる友情が、恋が、未来が、無限の可能性がここにあります。横を見ればひと夏をすごした刺激的な72人の仲間が、前を見れば戦前から続く過去58回の参加者で分野を問わず活躍するOB/OGがそこにいます。日米学生会議は無限に変化するあなたの可能性を後押しする最高のプラットフォームです。日米学生会議という舞台であなたに会えることを心から楽しみにしています。



【文化:グローバリゼーションの渦中で】
Eastern and Western Popular Art: Who is Imitating Whom?
今日、文化は簡単に国境を越える。日本の若者はヒップホップに夢中になり、村上春樹は全米でベストセラーとなった。進展するグローバリゼーションに伴う文化の伝播や普及は国家の枠組みを超えた交流を加速させると評価される一方で、地域の伝統や特性を破壊するという批判にも晒されている。当分科会では、文学、映像作品、音楽とジャンルを問わず広く表象芸術全般を扱いながら日本およびアメリカ文化の共通点や相違点と、その背後に潜む広範な社会システムへの理解を深めることを主眼とする。日米の文化は互いにいかなる影響を与えあって来たか。友好と相互理解の実現に向け文化の果たす役割とは。行動する主体としての学生の視点を忘れずに議論していきたい。
コーディネーター 高井 竜輔 Casey Samulski